祈りが終わった午後
花形新次

祈りが終わった午後
少年が誰もいない浜辺の砂の中を這い回り
内側から絞りだされるヌメヌメした粘液の放つ臭いと
舌触りだけをたよりに彼のお気に入りを探し出すとき
遠くで波は小さな奇跡が起こるのをじっと見ていた

祈りが終わった午後
少女がひとり神社の竹林に忍び込んで
彼女にピッタリのタケノコを見つけ
その先端に血の色のマジックで自分の名前
「サチコ」と刻むとき
四羽のカラスが叫び声を上げながら一斉に飛び立った

侮蔑することはない
理解することもない
諦めることはない
後悔することもない

約束された場所への道標なんて
とうの昔に破り捨てられてしまったことを
俺やおまえの背後につきまとう影が
薄っすら絶望と読めなくもないことを
彼らは既に知ってしまったのだから



自由詩 祈りが終わった午後 Copyright 花形新次 2009-09-19 00:30:45
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