Lavender/香気
月乃助


雲を切る
つめたい雨が
ひそやかに やってくる 
街は、もう秋でした

はだに まとわりつくようなとおり雨に
好きなように ぬれてあるけば
どんな、誰が住んでいようと
わらいごえに 団欒のあたたかそうな家の
プラスチックのおもちゃが水を集める庭に
かさなる 花があるのです

なにげないようにやってきては、ゆびに触れます
それは、わざとそうするように せつな
めのくらむほどの香が くっぐっと
わたしを抱きとめて、
季節が変わったばかりの ぬれた
日焼けのさめやらぬ通りに
平気で投げ出します

よろこびのあとなら
乾きつかれ眠り終わるように 身をよせあう
折れるほどに長い小さなバトンたち
夏を享受したそれが、
葉緑の 若さのなかに
紺碧色を洗いながしては、枯れていくのです

逝く時だからこそ 熟れきったオレンジのように
芳醇な香を放って
人をつかんでは、はなさない
さびしい雨のにおいを 押し分けてくる
蒼茫から舞いたちのぼる 最後の
剛毅なかおりが、

秋をつつみこんで
あなたへの想いのように つきまとい
わたしをそこから けっして
はなそうとは、
してくれないのです






自由詩 Lavender/香気 Copyright 月乃助 2009-09-16 02:17:16
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