ジガバチの娘
しゅう

臍のうえ
私の中に虫がいて
ごろりと寝ころぶ
指のさき
ちくちくしている
虫がとれない
もう、何年も前から

飼い慣らしながら歩いてきた
死にぞこないの虫を
でもいつからか
私が奴隷で、虫が主人だった

まだ見たことのないお前は
きっと芋虫だ
私の肉に根を張って
毎日を眺めている

雨の匂い/風の速度/草の味
私は知らない
私の代わりに記憶してくれている

ジガバチが、私の母親だったらいい
豚のようなお母さんより
冷たくて、鋭い
いつかお前の母親に出会うことがあったら
私もジガバチの娘にして

ぷつっと
指の先が裂ける朝
そこから、息ができたら爽やかだろう
首筋にお前が
羽をそびやかし
一言も告げずに飛び去る

私の全てを抱えて、窓の隙間から出て行け
そのとき初めて
からっぽのじぶんで
この世界を記憶し始める


自由詩 ジガバチの娘 Copyright しゅう 2004-09-10 22:45:49
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