まどろみて戦闘服のポケットの内なる闇で文字となり待つ


幼少時蝶を追ひ駆けあきらめた崖の上にてそろへ置く靴


砂山にトンネル掘りてやがて夜未だに指はつながらぬまま


裏山の茂みに隠れていたひとをあなたは憶えていなゐのですか


幼きとき沼に沈みし父親の誕生祝いのろうそくも沈む


酔いどれの義母が飛ばせしシャボンだま故郷を映しはじけて消えた


闇ばかり広がりつづける亡国で蛍殺しで囚わるる兄


お父様　お母様　お許し下さいわたくしは鳥になります


彼岸にて姉を看ていし弟のふいに振り向く影がわたくし


閉ざされし扉の前でうなだれて蝉の死骸に夢を問うきみ


馬車の馬首を切断（おと）され転倒す返り血ぬぐいつつ歩む帰路


眼帯を外せど見えぬ向こう岸白き手をふる黄泉びと知らづ