舞蹴子
木屋 亞万

もしも女の子が生まれたら舞子と名づけよう
男の子だったらマイケルにしよう
発音をネイティブっぽくマイコゥにしたらさ
男女どっちでも大丈夫だから

お腹にまいこぅと語りかけながら
彼がそんなことを言うものだから
お腹の中では抗議のドロップキック
腹越しに彼の顎を蹴り飛ばそうとしている

自分が生まれたときのことを
私は覚えていないけれど
私を産んだ日の事を母は覚えているだろうか
私は私の名前に満足していたのだろうか

私が生まれる前のことを私は知らないけれど
いのちが形作られていた頃に
父もまたこのように私を待ち望んだのだろうか
名前や子どもの将来について考えたりしたのだろうか

いつか私が生まれた日のことを
覚えている人が誰もいなくなってしまう日が来る
私は私を産んでくれた人
育ててくれた人の死を見届けなければならない

この子を産んだ日のことを私はずっと忘れない
彼にもずっと忘れないでいてほしい
そしてこの子は大きくなったら
私たち夫婦が死んでいく瞬間を見届けるのだ
私は自分が死ぬ瞬間を覚えておくことはできないから
この子に変わりに覚えておいてもらおう

今は性別くらい生まれる前にわかるのだと伝えても
彼は生まれてくるまでは知りたくないと言う
この子がもしハンディを抱えた子だったとしても
二人でしっかり育てていこうなと私の手を握り締めてくれた

女の子が生まれる気がするんだと彼は笑って言うけれど
腹の中でドロップキックがやまない辺り
やんちゃな男の子なのではないかと思っている

マイケルじゃあ少しかわいそうだなと思いながら
窓の外を見ると大きな月が浮かんでいた
うすい雲がかかっても輝きを失うことがない満月
大きな月の真ん中で兎がムーンウォークを舞っていた

漢字にするなら舞蹴だなと思った
彼がトイレに行ったからか
舞蹴は少し静かになった
秋を告げる虫の声と心地よい夜風が頬を撫でた


自由詩 舞蹴子 Copyright 木屋 亞万 2009-08-24 19:15:17
notebook Home 戻る  過去 未来