最初で最後の道
瑠王

はじめて日の出を見た

はじめての春がきて

はじめて二本足で立った

はじめて箸を持って

はじめて友達ができた

はじめてひとりで電車に乗った

はじめてのピアノは嫌いだった

水溜まりのようだと思っていた

はじめて見る海に丸呑みにされた

はじめて描いた絵を見て

うん、と頷いたりして

はじめて居場所ができて

はじめて本気で喧嘩した

はじめて心から謝った

はじめて丸刈りにした

はじめて煙草を吸った

はじめて人が死んだ

はじめての気持ちだった

はじめて人を好きになった

はじめてのキスは一瞬だった

はじめて見る夢は壮大だった

はじめて書いた手紙は

だれに書いたのだか忘れてしまった

はじめて髪を染めた

はじめてのコーヒーは甘かった

はじめて骨を折って

はじめて松葉杖をついた

はじめて人と交わって

はじめて約束をした

はじめてひとりで旅に出た

はじめて優しさを知って

はじめて冷たさを知った

はじめて裏切った

はじめて後悔した

はじめてアーチをくぐった

はじめて見る人でいっぱいだった

はじめて聴く音楽で

はじめて心が穏やかだった

はじめての酒に酔って

はじめて公園で寝た

はじめて人に憧れた

はじめて親を尊敬した

はじめて聞いた月のことばが"ゆうべのこと"

見向きもしなかったけど

はじめて美しさに気づいた

はじめて空を意識して

はじめて始まりに立った


長く暗いトンネルを抜けて

二十七度目の夏

振り返るぼくの背中には

まだまだ道が続くようです



自由詩 最初で最後の道 Copyright 瑠王 2009-08-20 03:04:57
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