輪郭
RT


放課後、屋上に呼び出され
どこにいるのかと見渡したら
彼女はコンクリートにうつ伏せていた
近づくと、目を閉じた横顔のまま
私の輪郭を引いてくれないか、と
きっぱりと言った

よく解らないまま僕は
そばに置いてあったチョークを使って
彼女の周りを縁取りはじめた
がりがりと短いチョークは削れ
爪をそぎ落としそうになりながらも
頭から、腕、指先
ウエストを軽くカーブし
ふと見れば
裸足であることに気がつく
まっしろな足の裏
軽く動揺する
スカートの中の足は
どこまで線を引けばいいんだろう

途惑いを見透かしたのか
突然の夕立
あっというまにコンクリートが灰色になる
雨に打たれても微動だにしない彼女
声をかけても動こうとしない
しかたなく傘を取りに行こうと
教室まで走った

息を切らし
戻ってきた頃には
雨は止んでいて
彼女はもういなかった

びしょ濡れのコンクリートの床に
一つだけ濡れていない場所がある
それは彼女の人型で
近づいて見れば
僕が引いたチョークの輪郭よりも
随分と内側が乾いていた

よく見れば
さっきはなかったものが落ちている
一本の定規
チョークの線を基点とし
本当の輪郭までを計っている

それは数センチの臆病のテスト
繋ぎきれなかった線の透き間から
彼女は逃げてしまった

すべては瞬間で出来ていた
夕焼けを待てずに夜が始まろうとしている





自由詩 輪郭 Copyright RT 2009-08-18 17:18:13
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