憾
木屋 亞万
世界は美しくなんかない
人生は使い捨てるもんだ
夢はずっと寝て見てろ
愛は無償じゃないぜ
きちんと対価を払いな
快楽は健康的じゃない
脳に刻み込まれていく
知識を覚えて増えた皺は二度と消せやしない
エスカレートしていくエクスタシーでいずれ破滅していくだろうさ
あまりキラキラしたもんばかり追い求めるなよ
ディテールが飛んじまうくらい強いライトを当てておいて
美人も糞もあったもんじゃねえだろ
ヒトを人間の思い通りにいじっちゃまずいよ
自分の悪いところを攻めちゃ駄目とか甘いこと言ってんな
そうやさしくばかりしていられないし
そんなにどいつもこいつも信じていられるか
自分のこと守るのが何より大事に決まってんだろうが
運命的な恋なんてのをごてごてと虚構で飾り立てるから
ちょっとした好意や偶然から足が抜けないやつが増えるんだ
目と目が会うだけで燃え上がるような恋なら
抱き合う頃には一酸化炭素中毒で逝っちまってるさ
人生は階段みたいにトントン拍子にゃ進まないし
失敗したからって魔法の銃で泡にされちまう訳じゃない
線路を引いたら栄光まで未来に走っていけるわけじゃねえ
話しても通じないし願っても叶わないことばかり
創作家が白熱灯みたいにしらじらと熱い夢ばかり語って
プラスチックの玩具みたいな空っぽの恋を書きたてるから
辛くて臭くて汚い現実から目を背けてしまうヤツが増えるんだ
虚構に出てくる普通の女の子なんて全く持っていかれてんのさ
生きろ生きろというけれど
死んじまった方がいいやつだって山ほどいるだろ
生きたいやつだけ生きてりゃいいんだよ
心が死にかけたことないやつが
へらへら笑ってその辺に澱んでるよりマシさ
死ぬ一歩手前で思いっきりジャンプしたら
自分の脚力で浮いてる間くらい生きていられるさ
両手を広げて開いた肺で味わう空気は解放的だぜ
愛の手なんて猫の手よりもタチが悪いぞ
助けるのと仕事を奪うのは違う
やさしさは甘やかすことじゃない
怒りの表現はビンタだけか
物壊すだけかよ、叫ぶだけかよ
文句垂れるだけか、悪口言うだけか、顔真っ赤にして泣くのか
で、抱きしめりゃ愛かよ
そいで感動して泣くのかよ
言葉はそのまま感情を表現するのかよ
死んじまえ糞野郎って告白でもいいじゃねえか
手をつなげば恋か、キスしてれば恋人か
陰部ぶつけあってりゃしあわせか
恋こい言ってるけど形だけじゃねえか
ちゃんと人をみろよ、頭で考えろ、心で悩め
今日の日のために生きてきましたとか
あなただけのために歌いますとか
大多数が見ているのに何度も平気で言ってんじゃねえ
嘘にすらなりえていない嘘なんか吐くな
テレビ越しに旨いもん食って喜んでんじゃねえよ
絵に描いた餅が絵の中で食われてるだけじゃねえか
茶の間のババアどもは小判とぼた餅を待ってんだよ
棚の上から小便臭い説教してんじゃねえ
世界は素晴らしい愛は美しい
人生は素晴らしい夢は美しい
そんなことは最初からわかってる
わかってんだから綺麗なもんばっか寄せ集めんな
薄汚れたニュースの蜜なんか吸ってんじゃねえ
別に誰かに怒っている訳じゃない
ただ詩を書いているだけなんだ
川に笹舟を流すようなもんだよ
だけどやっぱり思うわけさ
自分のこと以外もたまには考えること
目の前のただひとつのことだけに全神経を集中すること
好きなことには心から真剣になること
まずは自分を、自分の五感を信じてみること
生々しく生きよう
人生の素材の味を大切にしよう
自分を薄めないでいようってさ