翳る夏
塔野夏子

君は幻 夏が翳るから 僕は無口になる つまさきに
触れる空気が気怠い 何処かで 水の揺れる
気配がする 裏庭に ひそむように 羽黒蜻蛉が
息づいている 白い空に 百日紅が 凌霄花が
浮かんでいる とめどなく 夏が翳るから
僕は溜息をつく 君は幻 なのに その手首の内側の
静脈の青が なぜか目に沁みる 夢のなかのように
低いハミングが 君の唇から 漂ってくる かなしく
色づいた雲が空を流れ やがて遠くで 蜩が鳴く





百日紅:さるすべり
凌霄花:のうぜんかずら
蜩:ひぐらし



自由詩 翳る夏 Copyright 塔野夏子 2009-08-17 11:38:14
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