エレメント
伊那 果

 太古の昔に作られた土器の破片は
 彼の細い指で掘り起こされ
 想像力で埋め合わされて
 似ても似つかぬ形に仕上がった
 彼は太古の昔に思いを馳せ
 喜びを感じるのだ
 その夜 
 彼の細い指は彼女のうなじをたどり
 新しい命が彼女の内に宿る

 二人のいくつもの素材を掛け合わせた
 新しい命は
 二人の調和の象徴だ
 という風に彼は信じていた
 太古の昔からつながる、つながる糸
 私はいま紡いでいる

 子のない人はたくさんいるが
 親のない人は1人もいない
 土器をたどった指がたどった完璧な図を彼は思った

 彼女は大好きな靴を履けなくなった
 足がむくんでしまうの
 いつも磨いていた赤い靴
 履けなくなってしまった

 胎内で分裂を続けるいくつものエレメント
 それぞれに切り離された
 私、と あなた、と
 連なるいくつもの先祖が
 細胞一つ一つの顔を作る

 そしてできた新しい命を
 完成した、と彼は呼んだ
 
 彼女は主張する細胞たちの顔を見ていた
 
 あのね、誰かと溶け合うことってあるのかな?
 
 ある、と思うよ
 
 バラバラの細胞が組み合わさって
 ガタリ
 一つの物語が幕を開けた



自由詩 エレメント Copyright 伊那 果 2009-08-13 11:53:55
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