破片
たもつ

 
 
コップを割ってしまった
深夜ひとりで
お寿司をにぎっていただけなのに
お刺身はさくのものをスーパーで買ってきた
赤くて二割引できれいだった
酢飯は作り方がよくわからないので
知人に電話で聞いた
知らない、と言われた
何故知らないのかは教えてくれなかった
なんとなく考えて
炊いた白米に酢とみりんを入れて混ぜた
練りワサビは切らしてしまった
コップは割ってしまった
大きな破片は手で拾って新聞紙でくるみ
ビニール袋に入れた
お寿司を握っていただけなのに
細かい破片は掃除機で吸った
床の隅にナスが一本転がっていたので
ついでに冷蔵庫にしまった
昨日もそこにあった気がする
お刺身が手に冷たい
もしかしたらかつては
本当に生きていたのかもしれない
にぎったお寿司は二十貫に少し足りなかった
二十歳のころは
お寿司なんて握ったことはなかったのに
コップはいくつか割ったにちがいなかった
そしてゆっくりと口の中で壊すように
夜明けまで
お寿司を食べ続けた
 
 
 


自由詩 破片 Copyright たもつ 2009-08-07 17:33:26
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