太陽の塔
瑠王

藍の闇、琥珀の星。
三日月の船が西に寄る頃、太陽の塔の石階段を陽の守人がゆっくりと上り始める。

金の弓を手に、まるで世界を起こしてしまわないよう気づかうように、
一歩ずつ、音をたてずにゆっくりと上る。

三日月の船の上。
月の唄い手の子守唄は、もうゼンマイの止まりかけたオルゴールのようだ。
草原の草達が、さわさわと目を覚まし始めている。

旅の風がじゃれついて一面の草達を驚かせると、一斉に目を覚ます。
そうやって緑の海が揺れるのを、陽の守人は静かに眺めた。
間もなく塔の頂上へ辿り着こうというときに鳥達が声の調子を整え始める。
皆、朝を待っているのだ。

塔の頂上で燃えるかがり火は、藍の闇に護られ夜の四隅をみている。
絹のように滑らかで、星を琥珀に照らす荘厳な炎。

陽の守人はいつも思う。
生き物は慣れを知っている。
だけど私は、この毎日欠かせない仕事に慣れてしまうことはないだろう。
月の唄い手が子守唄をうたうのと同じ様に。
この瞬間、この時だけは、決して慣れてしまうことはあるまい。


陽の守人は矢筒から一本を手に取り、かがり火に尖端をかざした。
そして東の地平線に目を向けると、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。
金の弓を構え、弦に火の矢をかける。
ざわついていた世界が、水を打ったように静まる。

張りつめた弦が、全ての時を止める。
そして陽の守人の手が、勢いよく時間を弾き戻す。
放たれた火の矢は一直線に地平を射し、
あらゆる生命と共にときの声をあげる。

彼方に消え少しの間のあと、やがて東の空がオレンジ色に滲みだす。
陽の守人はそれが姿を現すまでじっと、目を離さずに待っている。


こうしてまた、世界に朝がやってくる。


自由詩 太陽の塔 Copyright 瑠王 2009-08-05 03:16:39
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