「月の砂と背凭れ」
Leaf
遮光カアテンの隙間より洩れ注ぐ流線形のオレンヂ光
それは例えるなれば、廃村の呻き声が凝結した色に変幻したという
静寂な深夜の長距離バス内に灯る望郷/涙すら閉じた瞼をも透かして乾かす
泣いている間も無く
背凭れが強制的に持ち上がる視線の先の風
何の気なしに触れるように察する
対価のない風薫る背凭れが翻っては嗤う真空を揺するんだ
代償を予感さす其れが何かはルナーフェイズに訊いてくれ
敢えなくさらさら零れ落ちたら小さなその手で掬ってくれ
ガーベラの花弁一片ずつ千切り謳う宵につれ軋む背凭れは
先月の臥待月より遥か漂う薄灯かりが微睡んだ窓辺の方角を向いていた
立ち去りぬそれらは躊躇無く
夜通し窓をこつっこつっと訪ねてきた
それはプレパラートが割れた撥音に酷似していた
混濁した薄紫色に蒼白な感情が手にとるように乱れる其れは
受動と能動の狭間に我を忘れ、窓際に耳を添い気を濁した
そして、窓硝子の嗄れた声に背を削がれるよう、途方にくれた
何処からか誰かが囁いた
“漕いで、漕いでよ鞦韆
放った夜光の線上を辿り
月の砂を握り締めるのです”と
或いは、此処は遮断よりは真空の部屋
乗じて、我は無軌道よりは自堕落な背凭れ
揺れてはならない筈の旗より遅れて放つ波動は
本当は揺れていたのか、それとも揺らされていたのか
対価のない風薫る背凭れが翻っては嗤う真空を揺するんだ
代償を予感さす其れが何かはルナーフェイズに訊いてくれ
敢えなくさらさら零れ落ちたら小さなその手で掬ってくれ