nonya

七月の雷鳴は
緊張性頭痛の彼方に遠ざかり
かいつまんだ夏の
漂着物だけが胸を塞いでいる

八月の岩壁から
ひ弱な海鳥はまだ飛び立とうとはせず
なまあたたかい波が
何度でも砂浜を嘲笑っていく

わりとよくある物語だ
酔わなければ読めない代物だ

読み終えることができずに
いつまでも頁を繰ってしまう
僕はまだ愚かな読者だ

忘れることは難しくて呆気ない

きっと遠くないある日の昼下がり
僕は今手にしている物語を
児童公園のゴミ箱に捨てたことも忘れて

本屋にも図書館にも行かずに
いつの間にか手に入れた
新しい物語の頁を繰っていることだろう

その物語が真新しい君なのか
それとも見慣れた君の続編なのか
そんなことは分からなくてもいいことだ

忘れることは難しくて呆気ない

九月の忘れ去られた海を見飽きて
十月の高い空に眠り呆けて
十一月の落葉と踊り疲れて
十二月の寒風に唾を吐いて

僕は頁を際限なく繰り続ける
頁を過去へと読み飛ばす

忘れなければ沈んでしまう
忘れなければ押しつぶされてしまう

そうやって
捨てて
捨て去って
捨て切れずに残った頁だけを
僕は愛する


自由詩Copyright nonya 2009-08-01 14:26:41
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