はちがつがこわい
木屋 亞万

八月が恐い
僕は七月に話しかけていたのに
七月は知らぬ間に去っていた

八月には入道雲が空を仕切る
僕は彼らの無遠慮さが嫌いだ
態度がでかくて、真っ白で、どことなく冷たい
全身が真っ白の人間は
結婚式以外の場では皆おそろしい

「この辺に置いてあった核兵器知らない?」
「え、知らない。最後に見たのは、いつよ」
「そういえば、あれだ。あのとき見つからないように慌てて隠して」
振り返っても七月はどこかに逃げてしまって、いない
七月に開かれた海は八月に汚された
魚眼が涙を流しても誰も気付かないと人間は思っていたらしい
部屋をひっくり返すと
天井を突き破らんばかりのミサイル
ミサイルは白い、八月の
入道がスーツを着込んだようにでかい

キャノンボールがあてもなく飛ぶ
練習をしているのだ
テニスのサーブをキャノンボールと呼んだ七月
八月のボールはキャノン砲が放つのでラケットでは打ち返せない
ラリーのないつまらない試合を作るために
八月は練習ばかりしている

八月が恐い
八月の前日に見た夢、
雲海の上をミサイルが飛んでいた
大きくて白い、ペットボトルロケットのようだった
空の高いところは風が強く、ロケットの皮はめくれ始めた
ティッシュペーパーのような表皮がはらはらと何枚も雲の上に落ちていく
そのティッシュが雲に触れるとみるみる入道のように膨れ上がり
雲の塔がミサイルを包み隠してしまった
笑う入道の白い歯の中を、不発のミサイルはまだ飛んでいるはずだ

八月は雷が増える
青空を翔る飛行機雲が牙を剥く、
飛行物体は旅客機ではない、繰り返すそれはヒコーキではナイ
人はソレが降り立つことを着弾と呼ぶ

誰かが誰かに怒っている八月
誰かが怒ることに誰かが怒る八月
充満する怒りのなかティッシュが空から降る夢を見て、むせび泣く八月
七月に事故にあった友がいなくなっていた八月
戦争を知らなくても理不尽な死くらい知っている、は、違う?


自由詩 はちがつがこわい Copyright 木屋 亞万 2009-08-01 02:55:12
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