乾いた声
あおば



                 090717




時効制度の廃止をめぐるさまざまな思考と思惑
死刑の対象となるような
強盗殺人には時効を無くす案も在るようだ
15年が25年になり
人の記憶の限界を伸ばす

25年が35年となり50年となる

35年ではない33年だと
法事嫌いの亡父が悔やむが
50年を済ましたから
安らかにお休みなさいと
祖父に告げて
墓石に水を掛けた

妄りに延長しても
記憶が伴わない
新たな記憶が創成され
新たな憎しみと確執
それが人類発展の源動力なのだと
意義を見いだすことも出来るが
過去の憎しみを煽り立てて
炎を上げさせて
その熱で隠しておいた肉を焼く
そんな景色も見えるようだと
芋の好きなオヤジが
焚き火を熾こす
藁は無尽蔵のように集まるから
燠火はいつまでも無くならないのだと
見知らぬ人に語っている爽やかな声
家族に見せない亡父の面影
外面ばかりの気の小さい人が
鉄砲を担いで進軍する
村々を焼き払う
敵性部落を焼き払うのはマニアルで
罪の意識を排除する
恨みは互いに期限付きである
焼き払うだけだから
反抗しない限り
誰も殺したりはしない
強盗殺人ではない
昔の夜盗とは違うのだ
スマートな士官とすれ違う
一兵卒が
佐官に逆らうのは
時代錯誤だとも語る
記録されない文言が
犯罪の有無を問うが
何しろ確とした証拠がありませんから
無罪とするしかありません
乾いた声を聞きながら
ページを括る
喧嘩はもうお済みですかと
にこにこ笑いながらけりをつけた
そんな最後の4コマを思い浮かべ
時効制度を考えた


自由詩 乾いた声 Copyright あおば 2009-07-17 23:18:24
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