退廃の舞
木屋 亞万

終末論が一面を飾る新聞が、離散して
風に吹かれ、色の剥げたポストに身を預ける
濃い雲に覆われた空、黒い湿度に包まれたビル街
暗色のスーツを着た男たちが、
非常口を求めるように赤提灯を探しさまよう
酒を聖水のようにありがたがって、
ちびちびと飲んでは、自分の足元を見失っていく
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難解な格言たちは嫌われて、
狂った歌に酔うライブハウスの若い者
活ける箱の中で平衡感覚を失い、音の波に乗る
「俺を殺していいのは林檎さんだけだぜ」
拡声器にすがりつくように若い者は言った
誰もお前を殺しはしない、逝きたきゃ勝手に逝くがいい
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公園の骸の骨を食む、野犬の眼には
かつての人への恨みしか残ってはいない
それは言い訳、それは芝居、それは偽り、それは期間限定の真実
湿っぽさの中に、毛の根元の蒸れた臭いがする
それが自分の匂いだと気付いて犬は大きく瞳孔を開いた
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何もかも終わったような顔をして
都会は今日も沈んでいく
砂煙が舞う嵐の中で、ヘドロの底に眠る街
大人たちは壊れるために酒を飲み、
汚い汗を垂れ流しながら、浮かれた気分で沈殿していく
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衰えていく、老いた者たちは、
口々に文句を言い合って、好きなところで溜め息を吐く
人は耳から老いていき、口は死んでも動いている
「もう世界は終わりだよ、十人ばかりの権力者が
偉そうに暴れてはいるが、彼らもそのうち死ぬからな」
テレビの中の砂嵐に、死に別れた妻を見つけて
すがり付いている人がいる、幸せな笑顔など、もうこの世界にはない
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焦らしていた空は、ついに雨を降らせた
難解な世界は濡れて機能を停止していく
涙が、誰かに死を望まれた、多くの瞳から
一粒一粒こぼれていく
この雨雲の彼方に、晴れ渡る空があり、
今宵の星は昔より多く瞬いているだろう
ちょうど惑星ひとつ分くらいの命が星になっていったのだから


自由詩 退廃の舞 Copyright 木屋 亞万 2009-07-10 00:03:36
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