迷宮
nonya


書き割りの高層ビルに
もたれかかる十六夜月
積木の高速道路には
飲み下せなかった
錠剤のような車の列

韻律の坂を駆け下りて
暗喩の橋を渡れば
目の前に広がるのは
上目づかいで吐いた
常套句のような街路

バーのカウンターに縋りつく
偏屈で憂鬱な動詞
クレヨンで描いた妄想に
夢見る視線をあずける副詞
錆びついたナイフを片手に
路地裏で渡り合う形容詞と名詞
セグウェイに乗った半濁点と擬音が
交差点で鉢合わせする

ここは
もうひとりの自分が
作り出してしまった迷宮

歩く傍から
呆気なく崩れ落ちていく
五十音の砂で作られた迷宮

入口さえ
忘れかけているから
出口は
おそらく見つからないだろう

いつの間にか
戻っているつもりの
日常であるはずの通勤途中で
うらぶれた代名詞と
すれ違うかもしれない


自由詩 迷宮 Copyright nonya 2009-07-05 09:34:58
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