9月のカブトムシ
umineko

もう9月になって
昨日を忘れたような雨が
じとじと降っているとゆうのに

どっこい
コウちゃんちのカブトは生きている
たしか6月に
さなぎからかえったはずだから
もうかれこれ3ヶ月の
記録的な長寿である

彼の足の下では
大きな幼虫たちが
むしゃむしゃと土を食らっている
母親は
とうの昔に息絶えた

ボクは
コウちゃんに持ちかけた
ねえ
こいつさ
ずっとこのかごの中なんだろ?
ウン
そろそろ山に返すってのはどう?
ヤだ

ボクとしては
せめて最後くらい
大自然のふところの中に
抱かれるってのもいいんじゃないか、と
思うのだけれど

コウちゃんの言い分はこうだ
彼は生まれた時からかごの中だ
だからたぶん
安っぽいプラスチックの青いふたを
空だと信じてる
だから全然いいんだ、と

もうすっかり
動きの鈍くなった彼は
まだ一心に
昆虫ゼリーに執着している
そう

もう彼には
えさを探し当てる
力などないだろう
この降りしきる雨の中で
ただ冷たく9月の雨に
死んでゆくだろう

月に向かって羽音を響かせる
そんな芸当などできるはずもない

そういやそかなー
ボクは静かにかごから離れ
ちら、と外を見上げると

プラスチックな灰色の雲が
低く垂れ込めてるばかり

  
  
  



自由詩 9月のカブトムシ Copyright umineko 2004-09-04 17:14:42
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