生田

 点は、よく見れば丸であった。角度を変え見ても丸は丸だったから、実は球に違いなかった。この詐欺師め。

 完全な球体がありまして、その内側は継ぎ目も傷もない鏡張りであります。もちろん光がありませんから真っ暗で何も見えません。光源を持ち込んだら光源にもとづいた像が鏡に映ります。確かなものはそんなものだけれど、口々に何が見えるか語りあった後に、増殖する暗がりを夢想し、震えるのです。それは、とてもやさしいに違いないのです。

 雨中に捉えたしずくの中はきっと、見えぬ宇宙でありましょう。夜は暗すぎて、朝は眩しすぎて、盲目のままに小さな牢獄に住むのでしょう。


散文(批評随筆小説等)Copyright 生田 2004-09-03 15:35:35
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