ふさわしい言葉
千月 話子

   人でなし

森が忙しく葉を揺らす
カッコウが巣の上で木々を見渡していた
小石のような小鳥の卵を
一つ二つと落としていくのだ


真ん中に一回り大きな卵を産むと
愛しむこともなく
さっとどこかへ飛んで行った


まだ見ぬ君よ
まだ居ぬ君よ
何も知らなくて良いのだ
森を吹き抜ける風が
卵を撫でるように通り過ぎて行った


本能は空を映す湖のように
薄青色の真っさらな塊で
見ず知らずの親鳥の
小さな腹の中で温もりを感じていた


「産まれたい」「生まれておいで」

お前が人であるならば
見合う言葉もあるのだろうが
夏の日は希望に満ちてやって来る


カッコウよ 
お前のことなど
もう どうでもいいのだ



   
   身代わり

男が 漆黒 という名の犬を呼んだ
目も鼻も全身真っ黒で美しい


散歩はいつも夜で
小高い丘の上を目指して歩く


月の光りが滑らかな黒色を滑り降り
上空からは美しい宝石の
零れ落ちる様が見えるのだろう


丘の上で落ち着くと
漆黒は空を見上げ
男は彼女の瞳を見つめ
そこに映った星の一つに
違う名を呼ぶ


クゥ と鳴く犬
首筋の長い毛を掴んで
抱き締めると
温かな舌で頬を舐めるのだ


そんなに優しい声で鳴くな お前
漆黒はまた クゥと鳴いた


人と人ではない
この悲しく優しい行為を
何という言葉で呼ぶのだろう



 






自由詩 ふさわしい言葉 Copyright 千月 話子 2009-06-22 23:30:47縦
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