saga
靜ト



「まだ諦めてないのか」

季節は夏を出し惜しみして 中途半端に突き抜けている
そんな景色をぼんやり眺めていたら
急に耳のそばで声がした
みどりいろの小さな悪魔みたいなイキモノが
あたしの肩で冷ややかな笑みを浮かべていた

「餓鬼のクリスマスのプレゼントみたいに簡単に手にはいるとでも?望み続けることで?」

煙草をふかしている
あたしは状況に驚かない そんな暇があったら祈りたいから

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

あの人が


「お前、」

フン、と鼻でわらう

「お前…自分が特別だとでも思っているのか。少女漫画のヒロインみたいに」

ずきん、とする なんでだろう そんな事思ってない、はず、なのに
煙が蒼い とても蒼い

「お前が望んでいるものはな、どうあがいたって手に入らないんだよ」

そんなことないよ。    というのは友人の励ましで、それをずっと信じているのはそれがあたしの最後の砦だから 

頑張ったらきっと、心を動かしてくれるよ



「違うな。」

退屈そうだ 彼の足は爪楊枝のように細くて病的だ

「お前は分かってるんだよ。どうしようもないって事をな。」

いつもそうだ わかりきってることを誰かに否定して欲しくて 誘導尋問を繰り返す
そんなものに意味など無いとわかって暗闇に心を浸すだけなのに

「あいつは、お前など見ていない。お前は求められていない。」

ああ

ああ  そうだ

人の心を動かすのには限界があるのだ
見えないものはもっと 無限に可能性があるものだと信じていたけれど

欲しい  欲しい   欲しい     欲しい         欲しい

涙がこぼれる

ウマレタテのあたしにはなにもかもアタエられていて
それがセカイなのだとムジャキにしんじてうたがわなかった

「まぁ、」

みどりいろの歯を見せてわらう

「他の誰かがいるさ。そいつが手に入れば楽になれる」



心を強く握られて 麻痺してしまえばいいのに
あたしの心は死に損なって 摑まるものを探し出す

だから きっとまた欲しくなる

手に入ったって

手に入る簡単な誰かじゃ駄目なのだ


あの人が欲しい あの人だけが欲しい


みどりいろと目が合う
哀れんだように小さく笑ってから
すぐ消えた


夏の夜の空は ぽかん と広がって
何かがうめてくれるのを待っている


自由詩 saga Copyright 靜ト 2009-05-30 00:17:21
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