「蟻」
ベンジャミン

とけた飴の中に
蟻が一匹閉じ込められていた

綺麗にそろった六本の脚は
もう動くことはない

蟻は甘い甘い飴の中
最後を迎えるにはこれ以上ない場所で
きっと苦しみ抜いたに違いない

けれどその苦しみさえも
飴は甘く包み込んでいた

傾いてゆく日を反射して
キラキラと光るその身体は
どんな悲しみも寄せつけない

(それは殻だからだ)

それは蟻という殻であって
もはや蟻そのものではなく
それは飴という墓場の中で
ただ美しく横たわっている

(涙の中で溺れる蟻を想像してみた)

どんなに残酷であろうかと
それは蟻という殻をまとった
つまり蟻という命なのだと

飴の中に閉じ込められた蟻は
飴の中でただ幸せな殻となり
それはどんな悲しみも受け入れずに
わたしはそんな蟻を幸せそうにただ
眺めてやることしかできないのだ

蟻の味わった苦しみはすでに
飴の甘さにとけてしまっているから

だから
わたしはその幸せな殻にむかって
涙を流してやることもなく立ち去ろうとした
そのとき

幸せな殻となったはずの
飴の中に閉じ込められた蟻が
少しだけ動いたような
気がした

それは
幸せな殻にしまわれるはずの

わたしの悲しみだったのかもしれない


自由詩 「蟻」 Copyright ベンジャミン 2009-05-27 17:12:39
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