シーラカンスの夢
nonya


ブラックスモーカーの
熱い暗闇のほとりで
スケーリーフットを枕に
わたしは不思議な夢を見た

空っぽの背骨を
滑らかな夜風で満たして
わたしは空に浮かんでいた

手足になり損ねた鰭を
不器用に羽ばたかせて
わたしは月明かりを浴びていた

たとえ空を飛んでも
わたしの姿は変わらない
硬すぎる鱗は決して
わたしを哀しみから守ってはくれない

たとえ夢の中でも
わたしの姿は変わらない
醜すぎる顔のまま
わたしは化石にもならせてもらえない

それでもわたしは飛び続けていた
夜の海のあてどなさの上を
温かい匂いだけを頼りに
ときおり星に瞬かれながら

夢の行方は分かっていたし
そこに辿り着けないことも分かっていた
でも潜水調査船の小窓から垣間見た
あなたの横顔が忘れられなくて

たぶん愛なんて
海底洞窟のあわぶくだから
愛し方も愛され方も
知らなくていいことだけれど

さざめく仄白い波間に映った
わたしの朧げな影が
もしも鳥に見えるのなら

あなたは
わたしを愛してくださいますか

たかがシーラカンスの
わたしを


自由詩 シーラカンスの夢 Copyright nonya 2009-05-25 19:55:38
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