皐月闇
nonya
掴み損ねた言葉の
微かな尻尾を追いかけて
自分の中の暗闇を
遠い目をして彷徨い歩く
赤いサンダルを履いた
今にも消え入りそうな
小さな誰かに手を振って
片道切符を握り締め
列車のデッキで震えている
幼い誰かの肩を抱いて
暑い季節の終りに
白い錠剤を幾つも噛み砕いた
猫背の誰かを見過ごして
いきなり煙になってしまった
ずっと憎んでいたはずの
誰かの面影に微笑みかけて
黒よりも濃く
黒よりも深く
黒よりも柔らかくて
黒よりも温いその暗闇からは
いつも雨音が聞こえてくる
にわか雨のようで
とおり雨のようで
篠突く雨のようでいて
五月雨のようなその音は
決して鳴り止むことはない
漆黒の木陰あたりで
誰かの後ろ姿に縋りついたままの
湿った言葉をむしり取って
慌てて指先に
伝えようとしたのだけれど
漆黒の川岸あたりで
君が咲かせてくれた紫陽花に
すっかり見惚れてしまった僕は
まだ自分の中の皐月闇から
抜け出せないでいる
自由詩
皐月闇
Copyright
nonya
2009-05-19 20:27:11