薔薇のパラグラフ
小池房枝

薔薇を見に行かなければいけないね
薔薇を見に行かなければならない

薔薇なんて柄じゃないなんて言わずに
心と体を
自分の気持ちと五感とを
ひと一人分
薔薇の中に置きに行かなければ

風の中の薔薇は遠い
鉢植えのミニバラは小さい
ひとんちの垣根に寄り添いすぎるのは憚られる
折り取ってきた野茨は
つぼみの最後のひとつまで咲ききって果てた

薔薇を見にいかなければね
薔薇に擦り寄ってもいい薔薇園に行かなければならない
燦燦たるセビリアーナにぐるりと囲われた芝生に腰を下ろして
ジャルダンドゥフランスの豊かさに圧倒されなければ
時には触れて
口づけしてしまえるほど顔を近づけて
手の届くピース
届かないピース
幾つもの幾つものピンク、真紅、クリーム、スノウホワイト
くすんだモーブ、ムーブ、揺れる
出自や命名の由来を書いたプレートの中には
「うどんこ病にとても強い」なんていうプロフィールまであって
世話をしてる人たちの心からの声が聞こえて来るようだ
コンクールの入賞歴なんかよりも
うん、それはとても素晴らしくて大切なこと

風に強い
寒さに強い
うどんこ病に強い
でも今咲いている花々は
つまりみんなそういうことだ
今日までの何もかもを乗り越えて咲いた今年の花

だからこそ
薔薇を見に行かなければならない
何度も行った薔薇園に
秋を待たずに今の五月に
薔薇たちの咲く前の姿も咲いた後の姿も知っている薔薇園に
本の中で色あせている組ひもの栞のいっぽんのように
自分をはさみこみに


自由詩 薔薇のパラグラフ Copyright 小池房枝 2009-05-21 23:53:15
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