捨てられないもの 鉢植え
砂木

実家の外に片付けられていた
三十年近く前 他界した祖母の鉢植えの鉢達
捨てようと思っているが
欲しいか と母に聞かれ
年々 花作りに目覚めていく夫へ
古いものだが 洗って綺麗にすれば
買わずにすむと 貰った

祖母が生きていた頃
家のまわりには色々な花が咲いていた
大きな庭があったわけではなかったが
水仙からはじまり春夏秋冬 
小学六年生の時 夏休みの自由研究に
花の詩集を作りたいと思うほど
祖母の花作りは 慎ましくも絶え間がなかった

しかし 祖母が入退院を繰り返し亡くなった後に
誰も手入れをしなくなった庭は自然と無くなり
生活から花が消えていった
かろうじて残った者達が まばらに息づく

持ち帰った古い鉢を外で洗いながら
子供の頃 祖母の生きていた頃
弟達と くだらない喧嘩をしていた頃
父母も若く おこづかいもそんなになく
バスに初めて一人で乗った時の緊張感
付き添って行った歯医者での弟の大泣きに
心配より赤面して怒って堪えていた 
自転車で珠算学校に通っていた土日
ぽつりぽつりと ごうごうと思い出が流れ
トイレのしつけをしてくれたのも祖母だったなあ
幼い頃他界した祖父はお風呂に入れてくれたし

100まで数えたらあがってもいいといわれ
ひとつふたつと数えて 途中であがりたくて
じいちゃんと言い合って 母と祖母が台所で笑って

鉢に添えられていたばあちゃんの手
花を育てていたばあちゃんの気持ち
忘れていたのに忘れていない
鉢の底で鉢の奥で 見守られていた私

夫の花作りは義母譲りで 年々表れてきたのだが
祖母と重ねてみるのも 悪くない
花は戻らないけれど 思い出を蘇らせた
古い鉢を 婚家の横にかわかす
新しい風に 時がうごめく



自由詩 捨てられないもの 鉢植え Copyright 砂木 2009-04-25 15:22:21
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