Born To Win [ride]
プテラノドン

 執拗にケツを追い回すホモのパトカーを振り切るための
逃げ道としては最適だなと思った。
百足のように枝分かれする住宅地を抜けて 
僕は夜空を染める工場に立ち寄った。そこに
自転車に乗って見回りをする作業員がいないものかと。
もしくは、母親が経営する薬局に来る常連客の話による
夜勤に現れる異国の若い作業員は今夜も、
配管を通う蒸気に頭をあてて寝癖を治しているものかと。
そして、おそらくその客が話していたように
事務所脇に止められたままの、パンクした自転車のタイヤは
当分治されないだろう。というのも、
タンクに溜め込まれた雨音が夜通し囁いて
野良犬や野良猫を寄せ付けなかったからな。おかげで、
蝙蝠と鳩の天国だ。地面には無数の血のあと残っているが、
今後も誰も気にとめやしないし、元を辿れば、自分でパンクぐらい
治せないものかと言ったやりたい。それと、
店の広さをかえりみずにあんたが大声で非難する
着任後早々に施工許可を出した市長の決断は正しかった。
実現不可といわれた世界初のスケルトン使用の煙突から、
煙が吐き出される様を作業員はもちろん、近隣住民、ホモのパトカーまで
退屈しのぎに日に一度は眺め、そして悪態をついて去っていった。
連中は皆、煙草を地面に捨てやがった。一体全体、
吸い殻拾いが仕事なんてプライドのプの字も感じやしない。
ただ、ライドと言う響きには
「風向き次第でどんな人生だって乗り越えられる」そんな意味合いが
あるような気がして好きだな。
若い作業員は、吸い殻と水の入ったバケツをぐるぐる振り回して、
休憩中の同僚を驚かせた。お前にもそんな一面があったんだな、と。
そしてお前にも死活問題は訪れる。それ位知ってんだろ?
結婚を機に仕事を辞めるか、始めるか―僕の友人の場合、後者だった。
「チャリ、乗れんのかよ」僕は友人に言うつもりだった。
工場の周りで辛抱強く待っていれば
チャリに乗る友人を見れるかもしれない。
高校時代、
ほとんど毎日僕は、そいつの荷台を占領していた。
パンクしていてもお構いなしに。



自由詩 Born To Win [ride] Copyright プテラノドン 2009-04-19 10:33:06
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