ほしねこ
山田せばすちゃん

山から吹き降ろす冬の風が
裸の木立をゆするころに
この村の家々の軒先に
縄でくくられた猫が
何匹も何匹も下がる

この村の特産品である
ほしねこを作る作業は
山から雪混じりの寒風が吹き付ける
ちょうどこのころに
始まるのが例年の事だ

「この冷たい風がいいほしねこをつくるんでがんす」

細い縄でたくさんの猫を
手際よくくくっていきながら
この道三十年だという田中留吉さんは話す

「去年は暖冬でなかなか思うようなほしねこができんかったけんど」

今年の冬の冷え込みはちょうどいいので
留吉さんは去年の倍のほしねこを作るのだという

細い縄でくくられた猫たちは
五匹づつまとめて軒先に下げられる
目を閉じて耳を折りたたんで
吹きさらしの中寒風に耐えるのだ
時々微かな声でにゃあ、と鳴くのだけれど
その声は風にまぎれて
私たちの耳にはなかなか届かない

「あまりでかい声で鳴くやつはいいほしねこにはならないんでがんす」

猫は昔ながらの日本猫に限る
それも虎や三毛よりも雉猫がいちばんいいのだ

「オスメスはあんまり関係ないみたいでがんすね」

何よりも毛の長いチンチラやペルシャは
乾きが遅いので使わないのだという
猫たちはこの寒風の中で約一月ほど干されてから
家の中に取り込まれて座敷の囲炉裏の上で
また一月ほどいぶされてやっと
どうにか一人前のほしねこになるのだという

「これが去年のほしねこでがんす、できはあんましよくないけんども」

干される前の半分ほどに縮んだほしねこを
そっと手にとらせてもらった
思ったよりもずしりと重いほしねこは
私の手の温みに目覚めて微かににゃあ、と鳴いた







自由詩 ほしねこ Copyright 山田せばすちゃん 2009-04-04 22:52:50縦
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