輪廻する、夏
望月 ゆき


水溶性の喧騒に混じり入る
マーブル状の
夜の鳴き声

脈が終わって、それでもなお
時は余る




疎林のまばらを
記憶で埋める
蔓はどこまでも
遠く伸び

驟雨のあとの
光合成

放出、また
放出




極暑の下の午睡

夢で
細胞が無意識に
誰かを愛し
するとそれは人間の姿になり
それから
悲しみがうまれる





爆撃機が
見知らぬ高い空を行き

その下で蝶は
無邪気に白く跳ねる


本当のことを話すたびに
言葉の
腐敗がすすむ




永住したいのに、夏は
今も座ることを許してはくれない

水母によって喚起されるイメージと
浮遊をくりかえす
そのあいだもずっと聴こえ続ける
無言歌

硝子のコップに残る指紋が
日向に浮かぶ

存在の痕

日焼けの重さ





一ミリ、ずれてなお
つじつまが合っていく

覗きこむ
カレイドスコープ、
夏の星座、
そのように




釣鐘草が不変を身ごもり
産み落とすことなく散っていく
消えていく虹だけが
それを知っている
消えながら虹は もう
誰の明日にも残らない




浄化された夜が
西へ、流される


朝焼けのコラージュ

ヘリオトロープの残り香

水盗人

いつまでも手をふる、送り火



  




自由詩 輪廻する、夏 Copyright 望月 ゆき 2009-04-03 22:20:52
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