輪廻する、夏
望月 ゆき
1
水溶性の喧騒に混じり入る
マーブル状の
夜の鳴き声
脈が終わって、それでもなお
時は余る
2
疎林のまばらを
記憶で埋める
蔓はどこまでも
遠く伸び
驟雨のあとの
光合成
放出、また
放出
3
極暑の下の午睡
夢で
細胞が無意識に
誰かを愛し
するとそれは人間の姿になり
それから
悲しみがうまれる
4
爆撃機が
見知らぬ高い空を行き
その下で蝶は
無邪気に白く跳ねる
本当のことを話すたびに
言葉の
腐敗がすすむ
5
永住したいのに、夏は
今も座ることを許してはくれない
水母によって喚起されるイメージと
浮遊をくりかえす
そのあいだもずっと聴こえ続ける
無言歌
硝子のコップに残る指紋が
日向に浮かぶ
存在の痕
日焼けの重さ
6
一ミリ、ずれてなお
つじつまが合っていく
覗きこむ
カレイドスコープ、
夏の星座、
そのように
7
釣鐘草が不変を身ごもり
産み落とすことなく散っていく
消えていく虹だけが
それを知っている
消えながら虹は もう
誰の明日にも残らない
8
浄化された夜が
西へ、流される
朝焼けのコラージュ
ヘリオトロープの残り香
水盗人
いつまでも手をふる、送り火