幸福の食卓
服部 剛
初老の母ちゃんを乗せた
旅客機は
赤ちゃんを産んで間もない
姉がいる富山を目指し
羽田空港の滑走路から
大空へ
飛んでいった
定年をとうに過ぎた親父は
警備の泊まりで
家には誰もいないので
仕事帰りのファミレスで僕は一人
チーズハンバーグを食べる
今頃母ちゃんは
泣きやまない赤ちゃんを
抱っこして
(いいこ いいこ)とあやしつつ
目尻を下げているだろう
向かいの席では
若い夫婦と幼い姉弟が
たわいのない会話を弾ませながら
テーブルを囲んでいる
頬杖をついて、僕は思い出す。
学生時代の姉が
初めてつくった夕食の
チーズハンバーグが湯気を昇らせた
あの夜の食卓を
(大人になって
いろんな人と出逢って来たが
結局人は、一人だなぁ・・・)
フォークを刺した
肉の一切れを
口に入れ
「おじさん」になった
静かな歓びを、かみしめる。