そらのかえるばしょ
コーリャ


いままで
だれもみたことがない
世界地図をえがきながら
いつまでも未着の手紙
のことをかんがえる
そして
伝送されつづけるテレパシーのことをかんがえる
どちらも
回帰線あたりで
かもめ になってしまうんだ
たぶん


ひとつひとつの記憶が
偏光しながら
ばしゃらん
ばしゃらん
とひびかせる
パレードだ
海に
むかって行進する
そのすがたは
うみどりの群れみたいだ
北半球には
かえることのない
うみどりたち


「うみに涙をみせちゃいけない!」
という砂浜にささった看板はさびていて
そんなのわかってるとおもった
「うみをキレイに」
よけいなおせわです


夜に海浜は
砂時計になってしまう
そして
さんばしに立った
ろうじんは            
ハーモニカを
海底にむけて
吹奏した
メロディーは
水中を透徹して
さかなはにんぎょになれる気さえした
しかし
百回目の♯のとき
反響してきた一回目の♭のせいで
ろうじんはハーモニカをてばなし
いっきに洪水してしまった
ろうじんは 違反したんだ 
砂時計がクルリとひっくりかえされる
そのつぎの朝の浜風は
すこし
はずかしげで
塩気がつよかった


海辺のJettyのペールブルー
酸素がたらないペールブルー
町で銀色のオープンカーが空転し
風見鶏や風車
どころか
案山子 
まで回転して
みずからを気化し
街人たちを匿名にした
みんながみんな違反者だったから
名前や身体をうしなって
シルエットが交錯し跳躍する
電燈のなかで
街は
音のないサーカスだった


南半球の表面張力をためす
ギャンブルのために
夕日はおちていく
いみもなく
にぎった
砂は
どうしても
零落していって
ならばいっそ
水平線に
そうっと
こぼす
すると
燃える海が
越境して
空ににじみでていく


うみが
そらに
かえってゆく
 
かおのないきみは
あそこでまっている
だから
「うみをキレイに」しなくちゃいけない
そんなのわかっているけれど

宵闇はむしろ街を
加速させ
もう
音速にちかいくらいで
いろんなものがしなやかに
記憶を追い越す

背後
から
疾走してきた
こどもの影が
ぼくの
背中に
衝突して
転ぶ

痛みをこらえているんだろう
ひとみは閃いているから

でもここはうみなので
泣くこともままならないのだ


いっそのことぼくが光点になり
自転を
とめてしまうのはどうだろうか

看板を
ひっこぬき
字面を
かきなおす

「うみに涙をみせちゃいけない!」

「うみに戻■■■ちゃいけない!」

「うみに戻■■■もどっちゃいけない!」

看板は
うみにながそう 


うみは看板のかえるばしょで
うみはそらにかえる
それなら
そらは どこに いけるのだろう
経度から
経度へと
そして経度へと


こどもの影はもうなかった
かわりに
一番星にむかって
かもめが一羽
とんだ





自由詩 そらのかえるばしょ Copyright コーリャ 2009-04-03 12:02:13
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