モノトーン
薬堂氷太

鮮やかな 情景を描く若者は

何も言わずに そっと耳を貸してくれた

この 年老いた私の言うことを

一言も 漏らさずに


腐敗した 私の考えと 行動に

悔いて 病んで 自分を諌めたいのか

私は 若者に 初めて 私の心のうちをさらした

信用できる友人に話すより

これからの関係に 後腐れのない

若者を 選んだのは 私の心の 弱さからである


気まぐれのような 私の話に

若者は 泪し 一枚の 情景をくれた

鮮やかに広がる 緋色の海


嗚呼 貴方に悪気は無いのだろうが

私にとっては あまりに残酷な 仕打ち

嘗て 思い出にふけった あの海に似ている

この情景は

私の 召しいた瞳には

白と 黒が 混沌のように入り混じる

灰色の死んだ海にしか 見えぬ


もう 色彩に溢れた あの柔らかい光の降り注ぐ

記憶の片隅にしかない 嘗ての海には

二度と 出会えぬ 後悔が

まるで 天使と 悪魔が 囁くが如く

私の脆い心を 槍で劈く


そんな風に 歪んだ考えの 心ごと

その何も知らぬ 無垢で 澄み切った瞳で

いっそ 私を 殺すがいい

若者よ














自由詩 モノトーン Copyright 薬堂氷太 2009-03-31 07:23:47
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