嘘についての断片




「甘い」

あなたのいれてくれた
コーヒーは
飲めば飲むほど 
のどが渇くのです

もっとくださいもっとくださいと
求めているばかりで
私は一日中
コーヒーを飲むことしか
できないのです









「ありがとう」


優しい人たちに謝りながら暮らしていると
いつの間にか周りに誰も居なくなっていました

床一面を埋め尽くした
「ごめんなさい」を見渡した
彼女にはもう
散らかった部屋の掃除しか
することが残っていませんでした


長い長い時間をかけて
長い長い間言えなかった言葉を口ずさみながら
いろんなごめんなさいを
はいて捨てました
ゴミ箱へ捨てました

その間も
優しい人たちは 優しい人たちのまま
ゆっくりと 育っていきました



西の空の上を
オレンジ色の予感が歩きはじめるころ
床一面を埋め尽くした
新たな言葉たちを見渡して
彼女にはもう 
することが残っていませんでした

誰もいない部屋の中で
静かな嘘だけが小さく響いていました









「背中を向けて」


最低の嘘

愛しているうちに
いつしかそれは
カレンダーに紛れて
去って行きました

身勝手な私から
開放され
それはもう
本当に

本当

輝いていました



自由詩 嘘についての断片 Copyright  2009-03-30 01:25:59
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