[タイムマシン]
東雲 李葉

やり直したいほど執着した過去なんて今まで特に思い付かない。
それなりに成功もして身の丈にあった幸せも手に入れてる。
不満を持つほど今の時代をよく知りもしないし。
やりたいこともやりたくないことも結局同じような内容。
だけど今目の前にタイムマシンが現われたら、
未来なんて全部捨て去って僕はそれに飛び乗るだろう。
例えばそれが意地悪な神様の戯れで、
安い作りのジオラマで愚者を演じさせられているだけでも、
退屈なんて知らなかったあの頃の僕へもう一度、もう一度。

やり直しなんて高尚な行為ではなく、ただずっとそこに居続けたい。
時間の流れも無視して巡る季節に逆らって、
命が老いて尽きるまであの頃の僕を何度でも。

日々を何十周とするうちに僕は微かな違和感を覚える。
機械のように正確に同じ時は繰り返されていく。
新しい言葉も表情も誰も実行してくれず、
未来を知ってる僕だけが退屈を感じて一人でいる。
タイムマシンはまだ現われない。帰る未来もないけれど。
ジオラマの教室は狭いのに雑な作りがよく目につく。
昨日と同じ話をしている親友。同じタイミングで笑い声が起こる教室。
卒業式が終わる直前に場面はくるくる巻き戻り、
決まってお昼休みの笑い声が絶えない時間へ。
何十周も何百周も変化を拒み変わらぬ時を。

新しく出来たアイス屋さんに行きたいね、と大好きな親友と話していた。
3ヵ月も前の短いメールが今更になっていとおしい。
未来の僕はどうしているだろうか。
大人になりたがっていた僕は本物の街で暮らしているのか。
あるいは所詮僕だから精巧に作られたジオラマの街で、
同じように過去に捕われて粗末な劇を演じているかもしれない。


自由詩 [タイムマシン] Copyright 東雲 李葉 2009-03-29 12:53:58
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