散春歌
和歌こゆみ

              

        ただそのひとでしか
                      それでしか埋まらない
                                    淋しさ、というものがあると。








その声をきいていたよ。

埃にまみれたアパートの隅で
ひび割れた踊り場で
いつか出会った芝生の空き地で



晴れわたる4月の空
目覚めたての空気のなか
白い鳥が舞うように 飛び散るように
薄汚れた僕の
心を切り裂くように



その手をはなさないで。

やさしい雨の音
岬で浴びたその滴りを
貴女はシャワーのようだとわらった
だから僕は
いまもこの浜辺にすわって











日ごとにそっと 貴女は遠くなるのに
躯だけが
憶えているなにもかも
つめたく凍り付いた その指先さえ






さびしさというものがあると

あなたでしか埋められないそれが

いつまでもここにあるって

気づかないでいて欲しいんだよ。







いまのまま 君のままで










あいしているなんていえない
















自由詩 散春歌 Copyright 和歌こゆみ 2009-03-25 11:50:10
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