無限廊下の、うさぎいす屋
夏嶋 真子




「ねぇ。」
「ねぇ、キミ。」
「ねぇ、ねぇキミ。」

無限廊下の、うさぎいすが鳴きました。
淋しいうさぎいすは、死ぬのです。



無限廊下に並ぶのは
無限個数のうさぎいす。

いちごうさぎ 羽うさぎ 嘘うさぎ ケイタイうさぎ
A4うさぎ 眠りうさぎ 春日駅うさぎ

(春日駅に港ができて
シロナガスクジラに乗った兎たちが
月に還ってしまったことも、うさぎいすには無関係)


ありとあらゆる事象のうさぎいすが
白い壁づたいに張りついたまま、記憶のだまし絵を描いています。


耳のスピーカーから流れるのは子供の情景に似た心音。
アンコールの拍手は雨だれうさぎの涙です。


「ねぇ。」
「ねぇ、キミ。」
「ねぇ、ねぇキミ。」

無限廊下の、うさぎいすが鳴きました。
淋しいうさぎいすは、生きたいのです。


さっきから鳴いているのは、
キミうさぎ。
そう、あなたのうさぎですよ。

お探しのいすが見つかったようですね。



「ねぇ。」
「ねぇ、キミ。」
「ねぇ、ねぇキミ。」

さぁ、早く
無限廊下を結んでください。
結び方はおわかりですか?
蝶々結びではいけません。


いくつの世界が必要ですか?
自分が何人必要ですか?





「ねぇ。」
「ねぇ、キミ」
「ねぇ、ねぇキミ。」



さあ、慎重に
キミうさぎは、とてもこわがり。
そっと、そうっと
おわりをはじめに結ぶのです、


あなたのお尻で優しくキスをして。





携帯写真+詩 無限廊下の、うさぎいす屋 Copyright 夏嶋 真子 2009-03-21 00:35:01
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