二十二歳
林 立平

□二十二歳

夢見る春の日の昼下がり
桃色の風に吹かれ顔を綻ばせた魂は
三十を望めないことを直感した
冬にどやされ春に癒され
季節風と共に歩む魂は
道が途絶えていることを知った
丁寧に磨かれた光る自転車の上でそれを知ったのです

青空はいつの日かの飛行機雲を運び
埋もれていた記憶は腐葉土深くから掘り出され
石の下で冷たい思い出を食らっていたゲジゲジたちを脅かした

ゲジゲジたちは乱れ散り
侵入者をきっと睨んだ
自分たちの仕事を奪われ怒った
笛の音に釣られて怒った

自転車は尚も走る
風を切って走った
遥かを目指して翔んだ
五月雨を迎える前に
何とかたどり着きたいと
岬への道は遠かった

この桃色に負けまいと
飲まれてしまってはならないと
自転車の上の幽霊は
身を強ばらせ硬くして
わざとらしく風を切りながら
ペダルを踏むのでありました


自由詩 二十二歳 Copyright 林 立平 2009-03-20 11:50:55
notebook Home 戻る  過去 未来