陰の器
アングラ少女

稚き珍獣を背に浦浪をのぞむ岡辺に
がんぜない甲の稚児の自瀆を睥睨しながら
老婆の
痴呆た癇声に
方位を
とる錨で均斉のとれた
煙管の 雁首で烙印つけた軒板の

蔵に

入り

寝かせた
空樽の
上で、老酒をあおる
やがて熟眠から
さめた朋輩の俤が盥の
脂ぎった戯女を負ぶりひくひくと
褪色した頬を攣りあげてぎこちない
足つきでにじり寄る 

史料として杯の幻想を殊にも美きひとの焦心を
諌めるためにたちまち醜男の痩せた咽喉が乾し


両棲類の遁げこんだ白栲の涯ない瓣の穴から
錯覚
の配列の中心を測る
我々に与えられた動作、の因襲と 機械的に
挿しあわされた事件との生きる潮流
まめやかに並びたつ微白い燈火
堆く積まれた懐しい贈物 
避けがたい圧死、
を泛う諧調を 注ぎいれる器
独自の工房で調和する 去勢のかぎり搾取し
つづける者の
剥れた瞼の奥で疾走する旋律
除名した楽団のかげを纏って
つねに放棄される図譜を
掻きみだした星座、の底ふかい秤の下を
、つ、き
免罪の兎がいやみな舌垂らし――
砂礫の路面を横断するみちづれに
瀆れたままの稚児と
とわに咽喉を嗄らし とわに蔑む女を
背に、負ぶり歩かねばならない
朋輩の俤 そしてさらに圧搾をくわえた獣が
ついぞわたしたちの友を離れず彼を
むなしい肉塊の吸盤にする
 多毛の尖った砂の飛礫で錆びついた風車
傍で石を積む跣の少年の肖像に
ちぎった兎の舌を咀嚼しつつぬかりなく調和
と猜疑を嗾ける獣
 寡黙な飼主も同時に吟味し採譜の準備をする
他の共犯者は怯み身を固くしたままかかる状況の
意図を汲まない。わたしたちの友と、その獰猛な
器具は、習慣化した冷徹な機動により、わたした
ちの命ずる仕事を首尾よく済ませる。免罪の兎と
跣の少年の陰画が脈うち、外枠を掠めて創造され
たかげの血潮が噴きあがる。搾取の完了とともに
けたたましい放棄の産声、熱帯の死滅した星雲を
娶るわたしたちの垂涎の的。
ついに狂奔する楽士らの行方、
かれら驚異の黒魔術によって鮮明な快楽の絶頂を
希う編纂者諸氏よ
聞け 創造と夥しい愛欲の営利それ自体のために
都会の黄昏を跛行する一人の若者も聞け
北海の濃霧のなかで産卵する魚の風景
肉体の跳梁する上を身ぎれいな悪魔が、
ベルベット装飾の弛みない煉瓦で蓋をする。
世界の画家は大陸の黄砂のつまった酒瓶の内部で首を吊る。
世界の作曲家は荊冠をかむりにべなく鳥葬される。
世界の女は内在する塑像の男の身替りに狂奔する楽士の獣を孕む。
たえず変容を繰りかえす魚眼の獣の卵を朋輩の俤に背負られた盥の膵液と瀆れた甲の分泌との混合液に浸け育成する。省察の膜をひろげる解剖された処女の線譜が宙がえり
満つる時のない時刻の導線に」変質した音の連続がらせん状に」巻かれ」発破する」


自由詩 陰の器 Copyright アングラ少女 2009-03-18 00:00:51
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