知らない故郷の道を走る
北村 守通

いつの間に
砂浜は深く削られてしまっていて
いつの間に
潮溜まりは浅くなってしまっていて
何年か
何十年だかしか
経っていない
留守にしていた
その間に
海はすっかり歳をとり
荒い気性になっている
すでに遠くなったのか
呼ばれたことすらわからないでいるらしい

いつの間に
どこまでもまっ平らだ
延々と続く
自動車道のその先は
留守にしていた
その間に
知らぬお宅に繋がって
地平線すら見えるかもしれない
この先は
遥か東に繋がっていて
行けば
進めば
諦めなければ
東に置きっぱなしにしてきた
欠片たちを拾いにいけるかもしれない
まだ
誰かに拾われていなければ
まだ
誰かに捨てられていなければ

私が育ったこの町は
もはや私のものでなく
私を育てたこの町は
もはや私に構わない
私はここでも一人ぼっちで
私は東でも一人ぼっちだった
長らく口きく相手もいなかったものだから
話す言葉も
発声も
忘れようとしている
取り戻そうと
口を開けば
砥粒入りの潮風がその口塞ぐ
口の中に
幾千万が
まとわりついて離れない
小さく硬すぎて
噛み砕いて飲み込んでやることも出来ない

潮風に
けっとばされて
視界が揺らぐ
軽すぎる身体を弄ばれる
ここを去れと
実力行使が繰り返される

帰路につくにはまだ早い
さりとて行くあてどこにもない
考えるべきことも考えつかない
さよならしてしまった
モノ達に
今更会わす顔が無い

いつの間にかできた
この道
どこまで続いているのだろう
どこまで
なんにもないのだろう
私は
いつまで続くのだろう
私は
どこまで空っぽなのだろう
明日まで何時間あるのだろう
昨日から何時間経ったのだろう
長すぎる一日はまだ終わりそうもない



自由詩 知らない故郷の道を走る Copyright 北村 守通 2009-03-17 16:47:10
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