それぞれの入隊
北村 守通

戦争が始まった
理由は知らない
ただ
待ち切れなかったどっかのあんぽんたんが
引き金引いたら
銃弾は
隣の敷地に入ってしまったらしい


戦争が始まった
訓練という仕事を見つけた
社会から必要とされた
生きがいができた
憧れの
自動小銃が手渡された
セフティを解除し
セミオートとフルオートの位置を
必要以上に確認してみた
ずしりと思い
エアーソフトガンではない
正しく
本物の弾を火薬の力を用いて発射する
ぶん殴る鈍器にもなる
銃剣をつければ槍にもなる
とても頼もしい
これからの
ボクの相棒
静止した的では不十分なので
迷い込んだ猫を撃ってみた
狙いがぶれた
後ろ足を貫通させただけだったが
面白いように転がった



戦争が始まった
誰に後ろ指差されるでもなく
事後処理に巻き込む必要も無く
死ねる機会が手に入った
正当に死ねる機会が手に入った
ただし
タイミングを間違えれば
部隊の他の人達に迷惑をかけてしまうことになる
それは決して望むものではない
例えば
ボクが撃たれることによって
相手の潜む方向性が判明したり
相手が潜んでいることをわからせてあげたりすることができれば
この上なく好ましいが
そうそう
映画のように都合のよいチャンスというものは
得られるものではないことはわかっているので
適当に
ドンパチになったら
積極的に前に出てあげることにしよう
そうすれば
僕の死は
人に迷惑をかけるどころか
人を救った英雄的行為として評価されるかもしれない


戦争が始まった
就けなかった職種の仕事が
人手不足になって
職にありつけた
食にありつけることになった

戦争が始まった
給与は悪くなかった
訓練はうざかったが
皆と一緒は悪くなかったし
嫌な事は
適当にうさを晴らせる場所があった
ゲームセンターでは
最終面までワンコインでクリアした
ワンコイン分だけ
ステージを進めたら
勲章がついて
給料が増えると思うから
その時には
帰って新しいデッキでも買ってやろう



戦争が始まった
きっかけは知らない
たぶん
誰も知らない
でも
皆が参加しているから
参加した方が
きっと
お得なんだろう
戦争が始まった
帰ってきたら
何をしよう
現地に行ったら
何を食べよう
出世できるかな
いやな上官いないかな
帰ってきたら
景気もよくなっているだろう
嫁さん選び放題かもしれない
隣のあいつが死んだら
財布の位置は覚えたから
こっそり
パクッてあげよう
それで
家族のもとに行くときには
それらしく
他の遺品を届けてあげれば
よくしてくれるかも知れない
適当なところで
死んでくれないかな



戦争が始まった
戦争が始まった
戦争が始まっただけだった
味噌汁の具はいつもと変わらなかった。


自由詩 それぞれの入隊 Copyright 北村 守通 2009-03-12 18:42:17
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