一冊の本
遊佐
━1
昼寝するあなたの枕となるような
陽射し遮る日傘となるような
本を作れたら良いと願うのです
ボロボロに擦り切れたその表紙には手垢がこびりつき、
セピアに色褪せた付箋は、いつも同じページに挟まれており、
程好い太陽の香りと、そよ風の匂いの染み付いた
そんな本が良いと
━2
春の日の麗らかな木漏れ日の住処にも
夏の日の陽炎燃え立つ熱砂の浜にも
秋の日の紅葉艶やかなせせらぎの隣にも
冬の日の寒さ厳しき氷原の庵の隅にも
いつも
あなたと共に在るように
(春夏秋冬
君を抱いて
春夏秋冬
君に抱かれて)
━3
何時の日にか
僕が君に差し延べるその手を、土に返す時が来ても
君の思い出の一欠片となり、色褪せようとも
君が、その心の頂に掲げる書物を得たとしても
昼寝する君の枕となり陽射し遮る日傘となり手垢にまみれ、
ボロボロに擦り切れた一冊となり
常に、君と共に在らんことを祈りて此処に。