OUTSIDER
渡 ひろこ

トリコロールカラーを織り混ぜた不協和音が
螺旋状に響く午前2時
F♯dimとB♭7がクロスした地点に
ジンジャーエールを凍らせたような結晶が生まれる
そう、今わたしの左の腰に小さな氷山が突き出している
やわらかな曲線でいようとしても
内側から樹液のように滲み出てくるそれは
わたしを歪な形に変えようと固まり
コントロール不能の半音上げたノイズを発信する

ノイズに引っ掻かれた右の脇腹からも
氷柱となった塊がぶら下がり
シャンパン色をした半透明の結晶の中で
閉じ込められた気泡が小さな悲鳴を上げる
ジェネレーションの枠からはみ出してしまうわたしのスピリットが
出口を求めて漏れ出してしまうのだ
零れる滴りは、パラノイアが見る夢よりも鮮烈かもしれない



アンバランスなオブジェであることを隠し
居場所を求めて若い水草が群生する湖に思い切って飛び込んでみたが
戯れにしなやかな水草が足首に絡んできても
光合成を繰り返す湖水は吐き出す泡で空気の層を作り
ぴったり肌には浸透してくれない
青い隔絶の膜を纏ってしまったわたしは
皮膚の内側が寒々しくて
貼りついた寂しさを溶かそうと
黄昏を抱くハ長調の海で泳いでも
異形の漂流者はやんわりと横波を受け
いつの間にか波打ち際まで戻ってしまう
同じ熟成度だと思っていたのに、成分が違ったらしい



どちらの領域の水にも抵抗なく浸ったつもりでも
馴染まないミュータント
そつなく流線型に水を掻きたいのに
制御できないノイズを発生させる病んだクライシス



わたしは増殖する結晶を抱えながら
どこにも属さない異形のオブジェとして、独りで立っている
その尖端を細くやわらかく伸ばし闇を突きぬけ
ティツィアーノの絵筆のごとく
わたしの中のミューズを描くしか存在価値がないのだ



試しに鋭利なナイフを腰に当て削ぎ落としても
すぐにジンジャーエールのような液体が滲んで
切り取った断面をジワリ と濡らしていった






自由詩 OUTSIDER Copyright 渡 ひろこ 2009-03-02 00:20:13
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