宇宙速度のフラグメンテーション
北街かな

遮蔽する人工物もなにもない!
球形をやわらかにくるむ白雲をも、ひとおもいにつんざいて
無音の只中に僕らは跳びあがる。

軌道上で目配せし合い、いざ革命の合図をしよう
地上から遙か虚無へと
行き場のないエラーを洗いざらい、ここに吐き出しにきたのさ!
あのデータグリッドに綿密に区画配備された事実上の鋼鉄都市を
意味のない粒子に還元してしまおう

僕らは腕と、ふくらはぎと、頬とに
厳格な符号の羅列を装備した兵隊だ
自由な手のひらを翼にして宇宙を飛ぶ天使の子らだ
さあ、あらゆるつながりをいちどきに解き放とう
僕らは宇宙速度で複雑になる、
自転のはやさで断片になるのさ

大気ごと抱えて回るまっさお惑星に目を回し
ずっと止めてきた呼気を解き放つ、そのタイミング
軌道上に血液の曲線を引いたんだ
ホラ、ほねが、ひふが、筋肉繊維が、つめが、歯が
眼球が
ばらばらに引き離れてゆく
のが、わかる…

生死について細かくなりながら考える
知ってる動物の声を真似れば、とたんに悩みは停滞する
孤独にかんする恐怖が分け入るように流れこんできて…

眼球がついに視神経を分断して脳から遠ざかった!
あまりさみしいから涙を吐き出してぶるぶるぎょろぎょろ震えてしまった
ふにゃになってく僕の目は、失いゆくこころに空想の手を伸ばす
しだいになにも見えなくなる。

さあ、みんな。そのままの宇宙速度で、星の周りを公転運動しようじゃないか!

地上から僕らはエラーを吐き出しに来た
若き夢想の断末魔を吐露しに一躍、飛びあがってきたのさ
秘密の弾道と時刻とを巧みに選定し
誰もが上空から目をそらしたその一瞬
瞬間的大事業は地球の大気を変質させる
平常の市街に次々起こる大変革を
地上の皆は僅かも悟ることは無いんだろう
止めてきた呼気をハッと解きはなつタイミングに
事実の都市はふくれあがって爆散して
影とカタチは引き離されるよ
宇宙に独りの孤独となれば
めだまも、ほねも、さみしさに泣く
ああここまで来て、やっと
ようやく、隣のあなたのことを知りたいと思うのだ

さまよう目がコロリと合えば
やあ、宇宙は静かですねと
孤独の話題で花を咲かせる有様さ

こんな果てのないところで吐き出して
ばらばらになっていても
あなたと話すのはやっぱり恥ずかしいね
遊泳している眼球は
地上と深淵とを、あたふたと見比べて
めまぐるしい光景に自転し
意味のない粒子にも立ち戻りながら
やはり、地上へ降下してゆく

僕らは宇宙から
日常を取り返しに落ちてゆく粒子の群れだ
正確な動作と高速な処理とあかるい朝と、あいさつに
僕だけの確証を認めるために。


自由詩 宇宙速度のフラグメンテーション Copyright 北街かな 2009-03-01 19:03:27
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