ギザ十
にゃんしー


(ポエトリーリーディング:http://www.myspace.com/slymelogue


ギザ十で買えるものは 小さな春でした

ぼくとあなたの帰り道
木枯らしぴゅうぴゅう吹く中を
黒と赤の、ランドセルがゆく
ささった2本のリコーダー

寒くて入った駄菓子屋で
真っ赤なほっぺたおなかはぺっこぺこ
おやつが欲しくてポケットあけたら
なかにはギザギザ十円が

おばあちゃんはいった
十円じゃパピコは買えないと
おばあちゃんがいった
十円で買えるものはない

かわりにもらったおばあちゃんのてのひら
しわくちゃなぞってみんなでわらった
やわらかぬくもりてれくさいから
言いたい言葉をごまかした

いまはもうないおばあちゃんの店で
いまはもうないてのひらを買う
十円のふちのギザギザ鈍く光る
そうギザ十で買えるものは 小さな春でした


好きなひととの帰り道
テストが終わって反省会
明日からの長い休み
田舎に帰るのよ

別れ道が寂しくて
何かひとこと言いたくて
ポケットぎゅっと握り締めたら
なかにはギザギザ十円が

好きなひとはいった
十円じゃ田舎に来れないわ
好きなひとがいった
十円で行ける場所はない

かわりにむすんだゆびきりやくそく
小指にのこしたかすかな気持ち
顔が見れずに走って帰った
背中で言ったさようなら

いまはもうない別れ道で
いまはもうない約束をする
十円のふちのギザギザ鈍く光る
そうギザ十で買えるものは 小さな春でした


ランドセルが軽すぎて
明日が来るのがこわかった
バカすぎてわからないならば
せめて好きだと言えばよかった

もしもあの頃に戻れたら
大丈夫だよ、て言ってあげたい
何が?と僕は聞くだろうから
そしたらギザギザ十円を

あのころの僕はいった
十円じゃ大人になれないよ
あのころの僕がいった
十円でなれるものはない

涙がにじんだモノクロの空
唇かんで殺した言葉
もしも信じたものがあるなら
ずっと変わらない今の自分

いまはもうない未来を夢見て
いまはもうない希望を思う
十円のふちのギザギザ鈍く光る
そうギザ十で買えるものは 小さな春でした


ぼくとあなたの帰り道
ぼくとあなたの帰り道
ぼくとあなたの帰り道
ぼくとあなたの帰り道

おばあちゃんはいった
十円じゃ買えるものはない
好きなひとはいった
十円じゃいける場所はない
あのころの僕はいった
十円じゃなれるものはない
誰かさんがいった
十円じゃあ…

見知らぬ道を歩いてる
何処とも知れぬ景色が続く
あの頃夢見た未来に帰ろう
形はちょっと違うけれど

大切なひとがそばにいて
大切なものがそばにある
気つけばそこに幸せがあった
ポケットにはギザギザ十円を

誰かさんはいった
ギザ十で買えないものはない
誰かさんがいった
思い出でかなわない夢はない

好きなものも嫌いなひとも
交わりあっては消えていった
全てが今を有効にする
目を見て好きと言えること

いまはもうない交差点で
いまはもうない不安を思う
十円のふちのギザギザ鈍く光る
そうギザ十で買えるものは 小さな春でした

ギザ十で買えるものは 小さな春でした


自由詩 ギザ十 Copyright にゃんしー 2009-03-01 13:53:27
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