預言者
Anonymous



彼女の手は優雅極まりなかった。

注がれたグラスを指だけで持つのも
差し出された手に手で応えるのも

様になったし、僕はなんとかしてその手をとろうと
やっきになった。

トランプをきるのも
ページをめくるのも

いつだって切り札を隠している。
そんな主導権は淫美な絵画だった。
僕は是非にと自分に切り札を突きつけて、
僕に標準をしぼってほしいと切に願った。

彼女の手に

月はその顔をなでられるのを夢見て
水は掬われるのをブルブルいいながら。

彼女の手は

預言者だった。

その美しい目の
その美しい口の

そう、すべてを司る。

ほら、彼女の手が一塊の氷をつかんだ。

僕はその映像に

彼女の目を口を
彼女のすべてを

感じないわけにはいかなかった。

僕はその映像が

網膜と通り、血液が循環するように
毛細血管
末梢神経まで
巡り行くのを

感じないわけにはいかなかった。

それは自分の鼓動と見紛うかのような
命の心音だった。

彼女の手に

炎はいつもの情熱と欲望を焚き付けようと
してみたけれど
それがどんなに野蛮なのか思い知り
雨が降り、その猛りを沈めてくれるのを待ちわびた。

彼女の手と

風はいつもの颯爽とした優美さで
いつまでも戯れていたいと試みたけれど
その刹那のまぐわいでは
切なすぎると風吹くのを止めてしまった。


僕はそんなエレメンツの亡がらを尻目に
彼女の手を取った。

僕はそのとき初めて知った。

本当の欲望を
僕らの脳や
僕らの身体は

満たす術を持たないということを。


自由詩 預言者 Copyright Anonymous 2009-02-23 21:42:17
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