転 -ten-
邦秋

「あ、」

読み掛けの本が閉じたことすら
気にも留めずにに下を見た

床に落ちたのは灰皿と灰
ひじにあたって落としてしまった

「今日は良い事がないな…」
目を閉じ、深くうなだれた

また一つ増えた仕事に撮り掛からなきゃ、と
目を開け、床に手を伸ばした時

既に伸びていたもう一つの手の先に
笑顔でコーヒーをくれた店員さん

「スーツは汚れていませんか?」

真っ先に相手を気遣う言葉に
久し振りの「驚き」を覚える内に

すぐに灰皿と灰は視界からなくなり
いつもと同じ床に戻った

不運と思えた予期せぬことで
「ありがとう」と思える幸せをもらった


自由詩 転 -ten- Copyright 邦秋 2009-02-16 23:19:00
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