革命前夜
手乗川文鳥

始めに朝があった
僕たちは扉を開けて
靴音鳴らして別れてった



「自分に自信がある男程SEXが下手なんだよね、何故か分かる?努力しなくても良いから。自分に卑屈な男の子の方が自分に卑屈な分だけSEXが上手になっていくの。そのどちらが良いのかも幸福なのかも私にはどうでもいい事柄なのだけど事実として今ここに断言してみちゃった。
「今更可愛らしいラブソングなんて唄えないよ、唄えないこともないし人から見れば私は可愛らしいラブソングを歌うのが似合うのだろうけど自分に嘘ついてまで歌を唄えないです私。

革命は既に起こっていて―根源的に、或いは内在的に―けれど私の革命は未だに不穏な前夜のまま。私は革命の予感溢れる夜の街をあてもなく歩き続けている

「あの頃の彼が好きだったバンドも歌ったでしょ、彼らの絆をウッドベースの4本の弦に例えたけれど、その後彼らは、あの4本の鉄線は始めからなかったよって歌ったし現に解散しちゃったし私もその彼と別れたし
「田舎だったからさあ、間接照明って言葉だけで恋をしてしまったのよ、まだ18歳だったし本当の意味で何も知らなかったし、
「いやだ、今私禄でもない言葉を使ったよね、そうだよね
「映画を一緒に観ると楽しい人、音楽の話をすると楽しい人、一緒に買い物すると楽しい人、一緒にお茶すると居心地いい人、勝手気ままに人間を振り分けていって全員が統合しちゃえばいいのにと思ってすぐ止めたの、それってつまり私じゃん!って。結局私は私を捜しているのかなあ。


「ねえ、今鳥が鳴いてる。」




やがて陽が落ちて
窓辺には月の灯
向かいの雑木林が風で唸る




「病院…。病院なんか行かなきゃ良かったのかもしれな
「ねえ今外を通った子供の会話聴いた?きっと将来私なんかより素敵な詩人になる。だけど大概の子供はそれに気づかないままなんじゃないかなあ。
「エアコンの温度上げていい?ここは少し寒いね。私の部屋より寒いのかもしれないね。
「私が花になったら名前は退屈ってつけてね。花言葉?なにがいいかなあ、怖いなあ、うん、答えを期待されてるのがありありと伝わるのでこれ以上は言わないでおく
「コンタクトがズレたみたい。洗面台借りるね。直してくる。
「それにしてもこのポスターはないと思う。うん。ないわ。
「―人生じゃあ、在り来たりだし、やっぱり、私、にしておいて。…なんでもないなにも言ってない
「私まだ東京に来てからしてないことが沢山あるの。えっとね、山手線を一日中ぐるぐるすること。あとはね、あとは、あと

私たちは今ここに対面してはいるけれどそれも通りすがっていく流れの一つ。直線は直線のまま交差するのは一度きり、私たちは今もゆっくりと分岐しているだけ。

「半袖の赤いワンピースと白いサンダルで冬の海辺を歩きたいかも
「宮崎あおいもいいけど私は二十歳の黒澤優がずっと一番好きだな。譲らないね。

「あ。鳥が飛んでいった。」



倦怠は真夜中
僕たちは足の裏の皺を
伸ばしたり滅茶苦茶にしたり



「透明になることと乖離すること、私はいつも作り物の体を操縦しているのにその私ですら操縦されている。
「ねえ、この身体で一番柔らかい部分を、抉っても良い。
「見えないけれどある、見えるけれどない
「瞼に模様をつけなくちゃ電車に乗り遅れるんだ
「この街で一番高いビルや鉄塔にいつも私がいる
「どの場所へ行っても紐を結ぶに適した所を探す
「あ、家なりだ。
「ねえ今貴方、私じゃなかった?私は今、貴方だったような気がしたの。

やがて朽ちていく退屈の花弁を貴方は粉々にするだろう、或いは窓辺で、或いはテーブルで。私はそれを懐かしく思う。永遠に過去へ向かう意識。この先私と貴方は二度と会わないだろう。つまりこの感傷の正体は懐古。

「吐息が漏れる度に私は絹糸を紡いで針を指に刺し小さな小さな血が人差し指に滲んで
「あの柱の向こうにね―ここに来たときからずっといるの―私がいるの―私はここにいて貴方と抱き合っているのに柱の向こうに私がいるの―知っている、本当はただ間接照明が作り出した影だと―けれど私にはあれは私と違う私で私はその私がさっきから気になって仕方ないのにあの私は―彼女は―ずっと虚空を見つめている、こちらを向いているけれど虚空しか見ていなくて―本当ならば彼女こそ虚空のはずなのに、今私は虚空の彼女にとってただの虚空にもならない―




「嗚呼!鳥が落ちた!失速したんだ!!」




「僕は、螺旋がいい。そうすればきっと―
白い手が翻り
部屋は沈黙で翳る
僕たちは始まり

身体中を真っ赤にした君は真っ青な眼で
一度も振り返らず帰っていく
本当は振り返ったのかもしれない
別の方向へ向かった僕の方こそ
一度も彼女を振り返らなかった




「桜文鳥の雛を死なせてしまったこと、今になっても忘れられない。」
「ねえ、あの鳥は飛べば影を私に落としたかしらね?」
「無責任な言葉で、私を慰めても良い。」

今世界中の信号が点滅して、人類が一斉に歩き出す。私はその中にいない。私は点滅する信号の中の―光の粒子でありたい。






自由詩 革命前夜 Copyright 手乗川文鳥 2009-02-16 21:36:56
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