赤い砂漠
手乗川文鳥





白いのかもしれない全部






ざらざらしている、
ソプラノ歌手の不安だ、工場の煙突から湧き出る、
砂を噛んだ黄色い音が、中空で消滅していく、
私の陰は深緑、ウォータカラーの群衆を踏む、白い踝、黒いパンプス、
目隠し鬼に昼間はないのです、
実存主義の羊たち、
実在しない羊飼い、





濃霧、埠頭、トタン屋根、乱痴気騒ぎ、
誰かが腰に手を回す、私は誰かの胸を撫でる、誰かが後ろで誰かの首を撫でる、
何処に眼がある、何処に唇がある、触れなくとも分かるのに貴方が誰かも私が誰かも、
分かりはしない、霧笛、舌が舌を這う、
やはり此処もざらざらしているのですね、
曖昧をどうやって愛すのだろう








群青の海と褐色の砂浜で
少女が一人で遊んでいる
駆け出しながら服を脱ぎ捨てて
少女は躊躇いもせず海へ飛び込む
誰もいない海と砂丘で
どこからかソプラノが聞こえる
誰もいない海と砂浜で
どこからかソプラノが聞こえる
誰もいない海を囲む空からも誰もいない砂浜から続く森からも
ソプラノが聞こえて
少女は塞がれていく




現実はとても白い、
私の眼差しを、
貴方は汲み取ってくれるのですか、
私の手から、
貴方もこどものように離れていくのですか、
溶けてしまった質疑応答から、
貴方の望む解答を掬うのは容易ですが、
私をどこか遠い国へ連れていってください嘘です私は独りではありません、
貴方が私を刺しても、
私は痛くありませんが、
このように全て白いことも、
私は受け入れる所存です、
煙が黄色いのは毒だからです、
その上を鳥が飛ばないのは鳥は知っているからです、




本当は知っている
徐々に崩れていく離れていく見たことのない色が
見える
誰の声も届かない無人の砂漠に
少女は辿りつき
独りで歩いている
向こうでそれを少女が見て
去っていく






どうか私に錆び付いたパンを








自由詩 赤い砂漠 Copyright 手乗川文鳥 2009-03-04 12:32:16縦
notebook Home 戻る  過去 未来