ボトル・ランゲージ
汐見ハル

ぼくの 内側には
ふたつのいろをした 
無数のコトバが はりついていて
ぼくは それを通して 
世界を みている
 
 ぼくのお弁当のスウプをみんなわらった
 カバンをぬらしたときなんかそれみたことかと
 おいしいのもしらないくせにみんなわらった
 先生だけがうらやましいって言ってわらった
 だから あげないよって ぼくもわらえた
 残さなかった
 
(Toi la nguoi…)
 
世界はいつも
半分ずつ
かわりばんこに
ぼくに かがやいて
 
(ぼくは、)
 
 カタカナで書いたぼくの名前を
 生まれた国の発音でとなえてみせたら
 先生は首をかしげて
 もう一回、とわらった
 歌のようね、とちいさく
 かわいたくちびるの動きは止んで
 
(…Co giao.Toi la …)
 
世界はいつも
半分ずつ
かわりばんこに
ぼくから はがれていく
 
 かあさんの書いた買い物メモを
 読めないぼくは
 自分の名前のほんとうのつづりを
 書くこともできない
 
(先生、ぼくは)
 
ぼくは
ぼくの中にあるコトバそのもの
薄くて透明な よわい磁石
ほどけて くだけて
漂流しつづける
瓶詰の沈黙
 
 学校で覚えてきた
 カレーの作り方を教えてあげたのに
 何度やっても かあさんは
 水っぽいスウプにしてしまうんだ
 
ぼくの 内側に
ぼくは 築く
船を
自由に 力強く 進む
船を
この透明な檻を壊して
誰かの 内側に
かがやき
胸に抜けない欠片と
なる ために


自由詩 ボトル・ランゲージ Copyright 汐見ハル 2004-08-17 00:35:45
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